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blown in the wind

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2004年 02月 28日

This place where it was Dead End.

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「この先、もと行き止まり」

いつもの帰り道、
信号待ちの交差点で、
何気なく目にした薄汚れた看板が気になった俺は、
いつもとは反対側にウインカーを出す。
しばらく行くと道はどんどん狭くなり、
両側にはどこまでも続くブロック塀、
俺は少し後悔する。

「対向車でも来たらアウトだな…。
 ひょっとすると、ただの行き止まりなんじゃないか?」

緩やかに右へ弧を描いている道の、
閉ざされた視界が僅かに開く、
そこには、ちょうどこぢんまりとした家が一つ入る位の空き地があった。
そして、その先には今来た道よりは若干広い、
やはり両側をブロック塀に覆われている道が続いている。



俺は安堵と落胆のため息をついて、
ただの空き地を通り抜けようとした。
すると突然、車の上部に鈍い衝撃音が響く。
俺は慌ててブレーキを踏み、
車外に飛び出すと、
そこには古ぼけた警備服を着た、
古ぼけた小さな老人が立っていた。

「困るんだよ、若いの。」

古ぼけた老警備員は、妙に甲高い声でそう言う。

「看板は見えなかったのかね?」
「看板?ああ、もと行き止まりって、あれですか?」

俺は車の上に目をやりながら答える。
ちょうど、子供が肩幅分だけ足を開いて踏ん張ったような、
足形が二つ。

「だから、ここは「もと」行き止まりなんだよ、若いの。」
「だから、「もと」なんでしょ!今は行き止まりじゃないじゃないか、
 現にこの先にも道はあるみたいだし。」

俺は睨みつけながら答える。
このジイさん、俺の車の上に降ってきやがった!

「じゃあ、聞くが若いの。
 ここがその昔、正真正銘行き止まりだったのを知っておるのか?」

ジイさんはニヤニヤしながら意味不明のことを言う。
段々、腹が立ってきた。

「知るワケないだろ!だいたいここには初めて来た訳だし、
 こんなトコだと知ってちゃ普通来ねぇよ!
 あそこにあんな妙な看板立ててるから、
 こっちは気になって来たんだろうが!
 それに第一、ジイさんあんた誰だよ?
 人の車の上に落ちて来やがって!」

ジイさんは更にニヤケて、
捲し立てる俺の顔をマジマジと伺っている。
こいつ喧嘩売ってんのか?

「とにかく、俺はこの先の道を抜けて早く家に帰らなきゃならねぇから
 ジイさんに構っている暇なんかないんだよ。」

車に乗り込もうとする俺の腕を、
ジイさんは信じられない位の力で捻り上げ、

「お前はこの先に行く資格はない、若造。」

と、こちらも信じられない位ドスの効いた声でそう言った。



あまりの痛さに観念して、
俺は安堵と落胆と、そして果てしない後悔のため息をつき、
ボンネットに腰掛ける。
ジイさんも隣に、なぜか体育座りで腰掛ける、
俺の車だぞ、ジイさん…。

「お前さんにとって、行き止まりとは何じゃ?
 己の行く手を阻む高い壁のような存在か?
 だったら、自分で越えて行けば良かろう。
 人生には多くの行き止まりがある、
 どうしても越えられない壁もあるじゃろう、
 壁の周りには「自分には無理だ」と諦めさせる為の鉄条網が張り巡らされ、
 壁の下からはシェパードの様に鼻が効く世間から吠えたてられる。
 それらをなんとか突破して無我夢中で登ってみたはいいが、
 壁の向こうには自分が思い描いていた理想郷ではなく、
 失望感という名の荒野がどこまでもどこまでも拡がっているだけかもしれん。
 それでも人は、一度は壁を越えたいと願い、
 行き止まりに挑んでいくんじゃ。」

ジイさんはやはり甲高い声でモゴモゴと喋る。

「だから、それが俺になんの関係があるんだよ、ジイさん?
 もともと、俺はどうしてもこの道で
 向こうに行いきたいってワケじゃないし、
 そこの道の方が、行きのこっちよりは広そうだから。
 とにかく、帰れれば俺はそれで良いんだよ!
 なんなら、来た道戻っても良いんだけど…」

今度はジイさん、真面目な顔でジッと俺を見つめ、俺は俯く。
そして、しばし沈黙した後、

「お前のそれは、ただの抜け道だ。
 お前の行く先を決めるのは、お前じゃないのか?
 お前は、本当はどこへ行きたい?
 本当に行きたい所なら、
 たとえ行き止まりにぶつかろうが、
 この先、道がなくなっていようが、
 辿り着こうとするだろう?
 それに比べて、
 抜け道はどこまで行っても抜け道だ、
 目的もなく、逃げてばかりの抜け道で、
 目的地に到着出来るはずもない。
 行き止まりをうまく躱したつもりでも、
 抜け道の先にあるものは、
 そびえ立つ壁に囲まれた、
 もと行き止まり…」

これまでとは違い、
素っ頓狂でも、泣く子が黙るでもない、
語りかけるようなジイさんの低く優しい声に、
俺は思わず顔を上げジイさんを見た。
そこには、古ぼけた警備服を着て、
体育座りをしているはずのジイさんの姿はなく、
車上の小さな二つの足跡だけが、
ジイさんのすっかり窪んだ目のように、
俺を見つめていた。

by yuuki_takehara | 2004-02-28 22:34 | Photograph


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